ふるい西部劇やその他のDVDについてⅤ-1
フェリペ某は流しのギター弾きだ。陽気で素寒貧、ちょっと鈍臭いところは御愛嬌。正式の名はファースト•ネームとさいごの姓の間に、母の旧姓とその両親の愛称と、フェリペが生まれた土地の名とその土地の守護神と、かれの生誕日にちなんだ星座と聖者と、歌と楽器の護り神の名がフリルのように連なっている。さいごまで誰ひとりきいた者はいない。好漢ホームズ大尉も途中でさえぎった。大尉は、洒落者ルイのいじめからフェリペを助けてくれた正義の味方だ。こうしてフェリペは、
大尉のよき従者となった。かれの唯一の欠点は、何かというと「わしの占いによると•••」そして大尉に「あとでな」といわれるたびに、しょげ返る。善良で押しの弱いフェリペだが、酒場でかれのギターをこわしたルイへのお礼は忘れなかった。ある夕、大尉とフェリペは、大尉の思い姫ロドレスに求愛ソングを捧げている不届きなルイをとっちめた。フェリペはルイのギターを踏み潰し、かれを威嚇した。だがそんなことをやったことがない善良なフェリペの恫喝はぎこちなく、鈍臭い。
西部劇『南方の騎士』は土地の登記をめぐって相争う地主どもの話。近隣の土地を不正入手したいルイの父親は罠を仕掛け、ロドレスの父親は手もなく引っかかる。ロドレスは泣く泣くルイとの結婚を承諾。これは一大事!大尉とフェリペは結婚式場の館へ急行する。その後に野盗団のボスとルイの元恋人とがつづいた。前者はルイの父親にいつも顎で利用されて切れまくり、後者はルイに婚約を反故にされ逆上しまくっている。広大な館は招待客でごった返し、誰が誰やらわからない。
大尉とフェリペがいた。大尉はいつもの軍服ではなくスペイン風の騎士姿である(ここは国境の町、住民はメキシカンだ)。なんとフェリペは女装である。性別を超越したごっつい貫禄の貴婦人だ。歩けばガニ股、自分のドレスを踏んづけて転倒する。振舞い酒をラッパ飲みしてお嬢様方にちょっかいを出して上機嫌。この場面こそは60分しかないこの作品において唯一、なんとか、かれが披露することができた、かれの見せ場(なんとも鈍臭いワンマンショー)なのだ。さて、かれと大尉は
どこかに監禁されているロドレスの父親をさがして広大な館中を駆け回っている。おいおい、父親の救出も大事だが、その間にもロドレスの結婚式は着々と進行しているぞ。いまや誓いの言葉が交わされ、ルイが指輪をとりだした。ここで、大尉が飛び込んで来て•••いや、来ない。神父がキスを促した(キスをするまでは結婚は成立しないのか)。今度こそ大尉が飛び込んで来るぞ•••え?来ない。二人がキスを交わす(アウトだよ、大尉)。ルイが神妙にロドレスのベールをあげきると、
ああ、かれの元恋人の笑顔が。そういうことだったのか、フェリペが女装していたのは。ロドレスとその乳母とが花嫁衣装の準備をする部屋に、堂々と近づけたのは親類の女性のみ。フェリペはロドレスの大叔母か何か(ルイの元恋人はその侍女何か)になりすまし入室、花嫁をロドレスからルイの元恋人にすり替えたのだ。この働きこそは、いつも鈍臭いフェリペが見事に決めてみせた、かれの本当の見せ場だったのだ。とはいうもの、この活躍については劇中まったく触れられない。
素晴らしい功績が誰からもスルーされるというのは、悔しいかな、いつの世にもよくある話。そんなことで凹んだりはしない、善良で、いつだって陽気なフェリペは。ラスト、カメラが幸せいっぱいの大尉とロドレスに寄っていく。そこへ喜びながらフェリペが飛んで来た「大将、わしの占いによると、お二人の未来は•••」大尉は腕を伸ばし無造作にフェリペを画面の外にはじき出した(そんなことはわかつてる。熱い抱擁の邪魔だぜ、とばかり)。マック•V•ライト監督、1933年モノクロ。
[記憶のみによるおしゃべりのため、あちこちに誤りの可能性があります]