ふるい西部劇や、そのほかのことなど(Ⅴ-5 )
「仲よくやろうや。一緒に美味い汁を吸おうぜ」酒場の用心棒ドク何某が誘いかけた。凄腕のかれは町の実効的支配者でもあったのだ。新保安官✳✳✳が笑みを浮かべ応えた「法に則ってやるまでさ」険悪な空気が漂った。その時、ドクに恨みのある男がドクの背後で銃に手をかける。素早く銃を抜いた✳✳✳が男を叩きのめした。驚ろき、そして破顔一笑のドク「おごらせてくれ」「いいね」二人は旧友のごとく杯を交わした。こうしてドクは心許せる友をはじめて得ることになったのだ。
重篤な病をもち、すぐに自暴自棄におちいるドクに、✳✳✳は温情ある態度で接した。身を持ち崩してはいるが、根は真面目な男であるのをみて取ったからだ。流れ者の✳✳✳が町の保安官になった理由は、殺された相棒の復讐であった。相手は時おり町にやって来ては狼藉をはたらく強盗団のボスである。連中はドクの酒場でもよく騒ぎ立てた。この点でも✳✳✳とドクの思惑は一致していたのだ。本作品の元ネタはいわゆる「OK牧場」でしょう。だから、ドクには蓮っ葉な情婦がいて、
清楚でしっかり者の婚約者も登場する。有名な手術の場面もある。震える手で手術を成功させたドクは、人びとの称賛をうけ、失っていた自信と矜持を取り戻す。「OK牧場もの」の中でわたしが一番好きな『フロンティア•マーシャル』では、手術の直後に(つまり人間として生き返ったその時)悪漢に射殺される。これは異色だ。普通は、ドクと保安官は一緒にクライマックスの決闘に向かう。本作品でのドクは••••手術を成功させ、立派な人間性を回復させたかと思いきや、以前にもまして
自暴自棄な態度を取りはじめる。口にできない秘密が生じていたのだ。すこし前、✳✳✳からかれの元相棒のさいごをきいたドク、その時の驚きといったら。✳✳✳と相棒が山林で砂金採りをしていると、悪名高い強盗団のボスがあらわれた。ふたりの馬をただ同然で譲れと迫る。強硬な態度で立ち向かう✳✳✳に怯んだか、「この礼はきっちりと、させてもらうぜ」と引き下がった。その夜、✳✳✳が町への買出しからテントに帰ってみると、相棒は射殺され、砂金袋はすべて消えていた。
「相棒を殺った奴を、おれは絶対に許さない」怒りに燃える✳✳✳の話に、ドクは頭が真っ白になってしまった。(あの晩、偶然テントに近づくと不意に銃を向けられ、おれはとっさに発砲した。あの男が✳✳✳の相棒だったとは。正当防衛だったといっても✳✳✳は聞く耳をもたないだろう。それに、出来心ですべての砂金袋を••••)悩めるドクを、何も知らないかれの婚約者が慰めるたびに、かれは手負いの獣のように怒りを爆発させた。(すべてを告白すべきなのか。自業自得とはいえ、
✳✳✳との友情を泥まみれに終わらせたくはない。撃ち合いになれば、おれのほうが上手だ。奴を殺したくはない)「OK牧場」をこうも改変するとは、これはもう異色どころではない。『荒野の決闘』の《豊かな詩情》(もっぱらの評だ)とも『OK牧場の決闘』における大スターのカッコよさとも無縁の本作品、一番の見所は意表を突いたこの筋書きであろう。事の次第を知ったドクは一体どうすべきだったのか。ドクと同様に、世間が推奨する人間像からどこまでも遠いわたしは、
視聴のたびにドクと同じく考え込む。所詮そこら辺の兄ちゃん風情(悪に徹しきれない俗物だ)、自業自得の恐ろしいクサリ鎌の強襲に震えて流れに身を任せるしかないのか。懊悩の末、ドクは町を去る決心をする。✳✳✳と別れを惜しんでいるちょうどその時、強盗団が襲い来た。迎え撃つ✳✳✳とドク。✳✳✳はボスを仕留めた。強盗団は全滅した。これでお別れだ。革バックを背に馬に向かうドク。突如、革バックから砂が流れ出した。銃弾をうけ穴があいたのだ。なんと砂金である。
固まるドク。✳✳✳が革バックを奪い中をあらためる。まぎれもなく盗まれた砂金袋だ。決闘だけはやめてくれと悲痛の叫びをあげるドク。✳✳✳は一切耳をかさず、抜き射ちの態勢にはいる。西部劇の定石は、非を自認する側がわざと狙いを外し、相手に勝ちを譲るという結末だ。本作品の締めは、筋書きと一緒で、みる者に「えっ!」といわせるのが狙いでしょう。みるたびに「ふざけやがって」と一笑に付すべきなのか、何か生真面目な教訓を引き出すべきなのか、考え込んでしまう。
(作品名がないのは思い出せないため。好きでDVD三回はみているのに)